「レストラン・ツジ」は、徳山市(周南市)銀南街の東端に1958年(昭和33年)開業しました。オーナーは若き辻ご夫妻でした。
まさに周南コンビナートが発展の産声を上げた頃です。製油所のフレアスタックの炎と、製造プラント群の照明は、まるで不夜城のようで、夜空を焼き尽くさんばかりの光景でした。昼も夜も街には人があふれ活気に溢れていました。
周りには色々なお店がありました。「つきひ」「ピエロ」「三角」「あちゃこ」「しらうめ」……。
徐々にマイカーが普及し始め、青空駐車場だった平和通りの路駐も禁止となりました。
お客様の利便性から駐車場を持つことが必要になり、1972年(昭和47年)辻オーナーの自宅を改築して「レストラン・ツジ」を現在地(児玉町2-28)に移転しました。
改築といってもほとんど建て直しみたいなもので、現存しているのは中庭の石灯篭だけかなあ。改築後は鉄筋コンクリート総2階建て、1階がレストラン2階は住まいです。
職人さんが1個ずつレンガを積んで、建てた建物が50年過ぎても未だ元気です。
玄関を入って右に曲がると、ブロンズ像「カンカン帽」があります。作者は『佐藤忠良』モデルは『笹戸千津子』(新町にある笹戸設計事務所の創業者笹戸正一さんのお嬢さんです。千津子さんはもちろん徳山市の生まれ、忠良さんの愛弟子でモデルで後継者と呼ぶにふさわしい彫刻家です。「周南市文化会館」に行くと千津子さんの作品がありますよ。)
ブロンズ像をもっと進むと「和(やわらぎ)」と呼ぶお部屋があります。由来は、前オーナーの辻和子さんに由来するのですが、池田厚子様が和子さんのためにお書きくだされた「和」の書が掛けてあります。(池田厚子様は、昭和天皇のお姉さま)
そうそう「和(やわらぎ)」には、安倍総理のお爺様の書も掛かっていますよ。
誰が誰に書いたのかお知りになりたければ店の者にお尋ねください。『終始一誠意』
「和(やわらぎ)」のお部屋には古時計がありますね。この爺様置時計も寄る年波には勝てず、しょっちゅう居眠りしています。たまたま私の腕時計の修理を購入先の方に頼むついでに、古時計の修理が出来る人を知らないかと、古時計の写真を見せたら「ああ、「和(やわらぎ)」の置時計ですね。よく知っています。実は私、学生の時ツジでアルバイトをしていたんです。知り合いの時計職人さんに聞いてあげましょう。」
その足で職人さんの所へ行き、古い置時計の修理をお願いすると一旦は断られたそうです。しかし「レストラン・ツジ」の置時計なのですと説明すると、「辻さんの所の時計なら直るかどうか分かりませんが見てあげましょう。」と引き受けていただきました。
2020年の春、前オーナーは、ご高齢のため引退してレストランを他人に譲ることを決め、内々に候補先を探しておられ、縁あって私どもが引き継がせていただくことになりました。下記の3つの考え方が同じだったからでしょう。
①徳山の繁栄と共に長きにわたり栄え存在している。歴史と伝統。
②わが街の人々は、少し改まった食事の場所として、商談や喜びを分かち合う時に使うレストランして共通の印象を持っている。
③基本に忠実に素材を生かした料理を提供し続けている。
特に②番と③番は私が重要に考えている事です。
引き継ぐことは決めましたが、シェフもスタッフも何も決まっていませんでした。
慌てて人探しです。それを知った先輩から「知り合いの娘で料理学校を出たのがおるが会ってみるか?」連絡があり面接し、採用したのが店長の石本シェフです。採用通知を出した日の夕刻、私の自宅に「石本の父です。娘をよろしく。」と知り合いのH氏が挨拶に見えました。結婚して姓が変わり分かりませんでした。「実は娘がT調理学校を卒業した際、辻のご主人に報告にしたところ、ぜひシェフをやってくれんかと言われた。しかし本人は荷が重すぎるからとその時はお断りしました。」とH氏は満面の笑顔でおっしゃいました。
赤煉瓦の建物の中に色々な良いご縁が集まって来ています。